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仙台高等裁判所 昭和56年(う)173号 判決

被告人 Y(昭○・○・○生)

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人織田信夫提出の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官山川一安提出の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

所論は、原判決には法令の解釈・適用の誤があるとの主張であり、要するに、児童福祉法(以下法という。)三四条一項六号の「児童に淫行をさせる行為」とは、「児童が淫行するについて、その児童に対し事実上の影響力による心理的束縛を与えうる行為」をいうと解釈すべきであり、「児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長促進する行為(最高裁昭和四〇・四・三〇決。家裁月報一七・一二・一五一参照)」とするのがその解釈の限界であると解すべきところ、原判示第一の事実に関し本犯とされるA子が被害児童とされるB子に対し、また原判示第二の事実に関し被告人が被害児童とされるC子とD子とに対し、右の要件を充足する行為をした事実はなく、右の各児童は自由意思によつて原判示の各淫行行為をしたにすぎないから、いずれも法三四条一項六号の罪は成立せず、従つて原判示第一の事実に関する被告人の教唆犯も成立せず、それゆえ原判決は、法三四条一項六号に該当しない事実を該当するものと誤つて解釈し、ひいては誤つて右法令を適用した違法があるというのである。

そこで法三四条一項六号について考えると、同号にいう行為は、法一条及び二条の法意にかんがみ、たとえ児童が自由意思で淫行する場合であつても、直接たると間接たるとを問わず、児童に対し事実上の影響力を及ぼして児童がその淫行をすることを容易にし、助長し、促進する行為を含むと解するのが相当である。これを本件についてみれば、原審で取調べられた証拠によると、被告人は昭和五五年五月六日ころ、その当時高校二年生であつたA子に対し、同女の学校友達の中から売春する意思がある者を探して紹介してほしいと申し向けたところ、その意を受けたA子において、同学年の女子生徒であるB子(昭和○年○月○日生)、C子(昭和○年○月○日生)及びD子(昭和○年○月○日生)に対し、売春料を払うから性交に応じるよう勧誘し、金銭欲に釣られた右の三名をしてその勧誘に応じる決意をさせたうえ、同月一八日右の三名を被告人に引き合わせたこと、他方被告人は、E及びFに対し売春の相手方となるよう勧誘しておき、右A子から紹介を受けた右の三名の女生徒のうちB子については原判示第一のとおり被告人を売春の相手方として性交させ、また被告人自身が、C子に対しEを、D子に対しFをそれぞれ売春の相手方として引き合わせたうえ右両名の女生徒をして原判示第二の別紙一覧表1の1及び2の3のとおり性交させ、その後被告人は、B子に対し売春の意思がある者を紹介してほしい旨依頼しておき、同女から被告人の右の申し出を伝え聞き金銭欲に釣られて更に売春を決意したC子とD子をして、C子に対しては原判示第二の別紙一覧表1の2のとおり売春の相手方としてGを引き合わせ、D子に対しては同表2の4及び2の5のとおり売春の相手方としてEとFとを順次引き合わせ、右の各男性を相手方としてそれぞれ性交させたことが認められ、右認定に反する証拠がないところ、右の事実に明らかなとおり、原判示第一の事実中A子の所為及び被告人の同判示第二の各所為は、いずれも、人の金銭欲を好餌とし、児童であるB子、C子及びD子をして金銭欲に釣られて売春を決意するように仕向けて原判示のとおり性交に走らせたものであるから、まさに児童に対し事実上の影響力を及ぼし淫行させた行為に当るというに十分である(従つてまた、A子のB子に対する行為について被告人の教唆が成立することも明らかである。)。

それゆえ、被告人の原判示第一の所為が法六〇条一項、三四条一項六号、刑法六一条一項に、同判示第二の各所為がいずれも法六〇条一項、三四条一項六号に該当すると認定して右各法条をそれぞれ適用した原裁判所の法令の解釈及び適用については何らの誤りもない。

論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし主文のとおり判決する。

検察官 山川一安 出席

(裁判長裁判官 中川文彦 裁判官 藤原昇治 渡邊公雄)

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